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大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)452号 判決

原告 田畑重行 外九名

被告(訴訟告知人) 阪南港運株式会社

被訴訟告知人 大阪一般同盟阪南港運職員労働組合

主文

原告らが被告の従業員たる地位を有することを確認する。

被告は原告らに対し、別紙賃金目録第一賃金欄記載の金員及び昭和五〇年七月一日以降毎月末日限り同目録第二賃金欄記載の金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一  原告ら

主文第一ないし第三項同旨の判決並びに金員の支払を命ずる部分につき仮執行の宣言。

二  被告

原告らの請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とする、との判決。

第二、当事者双方の主張

一  請求の原因

1  被告会社は、港湾荷役、運送を業とする株式会社であり、原告らは被告会社の従業員として勤務し、被告会社の従業員をもって組織する大阪一般同盟阪南港運職員労働組合(以下、組合という。)の組合員であつたものである。

2  原告らは、昭和五〇年五月二九日付組合の除名決議により同月三〇日組合から除名され、同年六月二四日、被告より、被告と組合との間に締結された、「会社は組合に加入しない者及び組合を脱退又は除名された者を原則として解雇する」旨のユニオン・ショップ協定に基づき解雇する旨の意思表示(以下、本件解雇という。)を受けた。

3  しかしながら、労働組合から除名された労働者に対しユニオン・ショップ協定に基づき労働組合に対する義務の履行として使用者が行う解雇は、ユニオン・ショップ協定により使用者に解雇義務が発生する場合に限り是認されるのであり、右除名が無効な場合には、解雇権の濫用として無効である。

本件解雇は、次のとおり組合の違法な除名処分に基づいてなされたものであるから解雇権の濫用であり無効である。

(一) 除名処分理由の不存在

組合の除名処分には何ら正当事由なくしてなされた違法があり無効であるが、その事由は次のとおりである。

(1) 昭和五〇年春闘当時、被告会社はオイルショック以後の累積赤字が膨大なものとなり、経営状態が極度に悪化していた。

(2) 昭和五〇年の春闘の際、被告会社は組合に対し、賃金ベースアップの第一次提示として、組合とは別に被告会社従業員で組織されている総評系全港湾阪南分会(以下、分会という。)との間で妥結した金二三、〇〇〇円を一〇〇として、五〇%(金一一、五〇〇円)を組合員に一律に支給し、残り五〇%(金一一、五〇〇円)については、現場作業員の昭和四九年度平均給与額金一六二、二五〇円を一〇〇%としこれに対する組合員一人当りの昭和四九年度平均給与額をパーセントで示し、右パーセントを右の金一一、五〇〇円に乗じた額を配分する案(以下、第一次案という。)を示したが、組合はこの提示額を不満とし、同年五月二一日組合大会を開き、ストライキ権集約を賛成四八反対七で可決した。そのため、被告会社は、同年五月二二日に至り、第一次案のうち一律分を六〇%とし、残り四〇%を配分対象とするとの譲歩案(以下、第二次案という。)を組合に提示した。

組合の重機部会(一三名)の代表者原告河野が、同年五月二四日、第二次案を同部会組合員に示したところ、一三名中原告ら一〇名は、石油ショックに遠因する被告会社の前記経営状態に鑑み、第二次案を拒否し、ストライキを決行することは被告会社倒産の虞れもあり、また、被告会社側に第二次案を出させたことで組合の対被告会社との交渉を一応成功したことになるので、第二次案を承諾し、ストライキを回避した方が得策であると考えるに至り、同日、原告らの代表者原告河野は、和田安生組合長にストライキ決行反対の意向を口頭で通告したところ、同組合長もストライキ回避に同意し、また組合執行部内でもストライキ反対の意向の者もいた。

(3) 同月二六日、再度組合大会が開かれ、その際、ストライキ決行の賛否がとられたが、賛否両論に分れ、大会は紛糾し賛成者側から反対者側に対し、「退場せよ、除名せよ」との声があがり、大村書記長、原告桑野執行委員外一二名が退席した。席上、原告河野は、ストライキ回避の釈明を求められたので、「組合大会の決議と会社を潰さないこととどちらが大事か。」と発言したが、会社の存立あつての組合であることを考えるとき、原告河野の右発言は当面の事態を素直に直視したものであり、当を得たものといわざるを得ない。

(4) 同月二七日、原告らは、原告河野を代表者として組合に対し脱退届を提出したが、これは、原告らに真実組合を脱退する意見があつたからではなく、あくまでも前記被告会社の経営状態をおもんばかり、ストライキを回避させる目的で提出したのである。その際、組合長は、原告らの意向を汲み、執行部がストライキ回避に尽力するので、この間右辞表を組合長が個人として預ることとし、正式受理は留保した。

(5) ところが、同月二九日、原告らに何らの通告もなく原告ら提出の脱退届の処置に関する件を議題として組合大会が開かれ、原告らの行為は、組合規約三五条一号所定の制裁事由である「組合の決議に違反したとき」に該当するとして除名決議が賛成四〇反対一で可決され、翌三〇日、組合より口頭で除名通告を受けた。

(6) 右のとおり、原告らの行為は、組合大会で決定されたストライキ決行に反対して就労しようとしたなら格別、単にストライキ回避の意向を表明したに止まり、また、原告河野の言動もストライキ回避の釈明に応じたのみであり、その言動が、直接「組合の決議に違反したとき」に該当するとみることはできない。

したがつて、組合の除名決議は何ら除名理由なくなされたものであり、無効である。

(二) 除名手続の瑕疵

組合規約三七条には、「この組合の制裁の請求は、全て書面によるものとし、制裁の請求があつたときは、執行委員会の議を経て審査委員会を任命し事件を調査させ、その報告に基づき戒告、権利停止については代議員会、解任、除名については大会において決定する。」との規定があるが、本件除名決議は執行委員会、組合大会においても右手続は全く履践されず、また、組合大会も被処分者である原告らに何らの通知もなく開かれ、かつ、原告らに弁明の機会も与えられずになされたものであり無効である。

4  よつて、原告らは、被告会社の従業員たる地位を有するところ、被告はこれを争い、かつ、本件解雇の意思表示のあつた昭和五〇年六月二四日以降賃金の支払をしない。ところで、右当時における原告らの平均賃金は、別紙賃金目録第二賃金欄記載のとおりであるから、原告は、被告に対し、従業員たる地位の確認と、昭和五〇年六月二四日から同月末までの賃金(同目録第一賃金欄記載の金員)及び同年七月一日以降毎月末日限り同目録第二賃金欄記載の賃金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告答弁並びに主張

1  答弁

(一) 請求の原因第一項記載の事実は認める。

(二) 同第二項記載の事実中、原告らが組合の除名決議により組合から除名され(その日を除く。)、その主張の日に、被告会社からユニオン・ショップ協定に基づき右除名を理由として解雇の意思表示がなされたことは認めるが、その余は争う。

(三) 同第三項(一)、(1)記載の事実は不知。

同第三項(一)、(2)記載の事実中、昭和五〇年春闘賃金ベースアップについて、被告会社が組合に対し第一次案を提示したこと、これに対し、組合が不満であるとして、昭和五〇年五月二一日組合大会を開きストライキ権を確立したこと(賛成四七、反対七)、そのため、同月二二日、被告会社が第二次案を提示したこと、同月二四日、原告らが被告会社の第二次案を是としてストライキ回避のため、和田組合長にストライキ反対の意向を伝えたことは認めるが、その余は不知。

同第三項(一)、(3)記載の事実中、同月二六日組合大会が開かれたが、賛否両論に分れ、賛成者側から反対者に対し、退場せよ、との要求があり、原告らが要求に応じて退場したことは認めるが、その余は不知。

同第三項(一)、(4)の事実中、原告らが、同月二七日ストライキ反対を理由に組合に脱退届を提出したことは認めるが、その余は不知。

同第三項(一)、(5)記載の事実中、組合大会が開かれ、原告ら提出の脱退届の処置に関する件が議題とされたが、原告らの行為が組合規約三五条一号所定の制裁事由に該当するとして除名決議なされ、原告らに除名通告がなされたことは認めるが、その余は不知。

同第三項(一)、(6)記載の事実は争う。

(四) 同第三項(二)記載の事実中、その主張のような組合規約のあること、原告らの除名に関し、書面による請求、審査委員会の設置、調査がなされなかつたことは認めるが、その余は不知。

(五) 同第四項の事実中、被告が原告らの従業員たる地位を争い、昭和五〇年六月二四日以降賃金の支払をしていないことは認めるが、その余は争う。

原告らの昭和五〇年六月当時における月額平均賃金は、別紙賃金目録第三賃金欄記載のとおりである。

2  主張

(一) 本件組合の除名処分及び本件解雇は、いずれも有効になされたものであるが、その除名に至った事情は次のとおりである。

(1) 昭和五〇年春闘における組合の姿勢

被告会社は、かねてよりベースアップにつきスライド方式、すなわち分会との妥結額にスライドして前記組合員のベースアップも必然的に決定する方式を提案していたが、組合はこれに一貫して反対してきた。ところが、被告会社は昭和五〇年春闘においても五月七日スライド方式を提案してきた。そこで組合は、昭和五〇年五月一四日組合大会を開催し、被告会社案を付議討論した結果、同案は組合の最も重要な要求である経済的要求について団体交渉の余地をなくし、右被告会社案を受諾することは、組合の団体交渉権、団結権等労働基本権を自ら放棄することに通ずるものであり、しかも他の労働組合の妥結額にスライドするということは、組合の自主性をも否認することになり、組合の存立にかかわる重大な問題であるので、到底これに応ずることはできないとの理由で右被告会社案を否決した。その後、被告会社は依然としてスライド方式によるベースアップ額を提出してきたので、組合は、同年五月二一日組合大会を開催し、ベースアップ額についての不満とともに、前記スライド方式に反対し、ストライキ権を確立し、闘争態勢に入つた。

五月二二日、原告らが所属していた重機部門にも闘争委員決定を急ぐよう積極的な働きかけがあり、他の部門も闘争委員を決定し、五月二四日スライド方式の撤回と金額の上積みを求めて被告会社に対しストライキ通告をなすことに決定していた。

(2) 原告らの行動について

労働組合員は組合に加入した以上、組合の団結を乱さず、組合の目的に従つて活動すべき義務があり、特に組合が特定の問題について団体交渉を行つている時期には、組合の統制に服し一致団結した行動をとることが要請される。

原告らは、昭和五〇年春闘に関する組合の前記決定については、常に主導的役割を果し、ストライキ権の確立、闘争委員の決定等闘争態勢の確立にも積極的行動をなしていた。

ところが、原告らは、組合がその存立にかかわる重大な問題であるスライド方式撤回並びにベースアップ金額の積上げについて、ストライキ権をバックに五月二四日ストライキ通告をなし、一致団結してその要求を貫徹しようとした矢先である同日に、突然組合の決定に違反するストライキ反対、被告会社案受諾の意思を和田組合長に通告し、組合の団結を乱し、事実上組合長に組合決定である同日のストライキ通告を断念させた。組合員は、組合決定どおり同月二六日(月)にストライキに突入して要求を貫徹しようと意気込んでいたところ、同日、被告会社に対し、ストライキ通告がなされていないことが判明し、組合員の意欲は阻害され、同日午後、組合員の請求により「組合決定不実行」に関し、臨時大会が開催された。右大会において、組合員から、前記原告らの行動について批判が集中し、これに対し、原告河野から「大会、大会というが、お前らは、大会の決議がそんなに重要なのか」との発言があり、組合の最高機関である組合大会を軽視する態度が明確にされた。これに対し、組合員の中から、原告河野及び同原告に同調する者の退場要求があり、原告らは右要求に応じて退場したものである。

その後、原告らは、同月二七日、前記組合大会の決定の決行に反対であることを理由に、組合に対し、脱退届を出した。

以上のように、原告らは、組合の最高意思決定機関である組合大会を軽視する基本的態度に基づき、団結権を侵し、ストライキ決行を妨害し、以来組合は被告会社との交渉よりも組合の団結維持に精力をとられ、昭和五〇年春闘は全く実りなきものとなり、原告らの行動は、組合の命運をかけた闘争を挫折させ、組合にとつて重大な影響を与えたものである。

(3) 除名決定の経緯

組合は、原告ら脱退者の措置について、昭和五〇年五月二八日臨時組合大会を開催し、執行部からその措置に関し付議された。その際、原告らを制裁すべきことについては全会一致であり、制裁の内容及び手続が討論の中心となつた。組合規約にいう、「書面による制裁請求、審査委員会の設置、調査」については、各組合員の制裁請求の意思は組合大会で明確であること、また、同年五月二六日の組合大会での討論内容及び脱退届の内容から制裁事由に該当することは明確であるとの事由でその必要性なしと全会一致で決定した。

処分の内容については種々討論の結果、同年の春闘の重要性、すなわち単なる経済的要求のみならず、組合の自主性の奪還という組合にとつて存立をかけた闘争であり、それに関する組合方針、決定に違反し、組合規約三五条一号、三号に該当することは明確であり、同規約三六条の「解任」ないしは「除名」に相当することは明確であるとし、「解任」か「除名」かについて無記名投票による票決をとつたところ、「解任」一一票、「除名」四九票(組合員総数七三名、出席者六〇名)で除名に決定したのである。

なお、原告らは、五月二六日の組合大会でも弁明をしており、さらに同月二八日の組合大会についても、組合執行部は、通常の方法、すなわちタイムレコーダーの前に議題等を公示したうえで組合大会を招集し、原告らに出席の機会を与えていたにもかかわらず、原告らが組合大会に出席していないのであるから、原告らは、組合大会における弁明権を放棄しているのである。

(二) 仮に、本件解雇が無効な場合でも、被告は原告に対し賃金支払義務はない。

すなわち、被告会社は、組合との間で、「会社は組合に加入しない者及び組合を脱退又は除名された者を原則として解雇する。但し、会社が解雇を不適当と認めた場合は、組合と協議の上引き続き雇用することができる」旨のユニオン・ショップ協定を締結している。右ユニオン・ショップ協定によれば、被告会社側は、協定該当者の解雇を不適当と認めた場合を除き、原則として右協定該当者を解雇する義務を負つているのである。

本件解雇は、組合が昭和五〇年五月二八日原告らを除名し、同月二九日被告会社に対しその旨の通告及び原告らの解雇を要求してきたので、被告会社は、前記ユニオン・ショップ協定に基づき、右除名処分の有効性を前提として、原告らが被告会社にとつて必要不可欠であるか否か等につき協議したが、組合の強い要求によりやむを得ず同年六月二四日原告らを解雇したものである。

原告らは右解雇により就労不能になつたが、それは組合が原告らを除名したことに起因しており、被告会社は、右除名処分の当否については組合の内部自治の問題であり、除名事由及びその手続の適正等を審査する権限を有しないため、除名処分の効力についての判断は組合に委ねるほかなく、仮に、組合の判断の誤りにより本件除名処分が無効になり、本件解雇も無効となつた場合には、その結果発生した原告らの就労不能状態については、全面的に組合がその責に任ずべきものである。したがつて、原告らが組合に対し損害賠償請求をなすのなら格別、被告会社に対する賃金請求権は、民法五三六条一項により発生する余地はない。

三  被告の主張に対する原告の答弁

被告の、弁明権の放棄並びに賃金請求権が民法五三六条一項により発生しない、との主張は争う。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一、請求の原因第一項の事実及び原告らが組合の除名決議により組合から除名され、被告会社は組合との間のユニオン・ショップ協定に基づき右除名処分を理由として、原告らに対し本件解雇の意思表示をなしたことは当事者間に争いがない。

二、原告らは、本件除名処分は無効であり、したがつてこれが有効であることを前提とする本件解雇もまた無効である旨主張するので、以下、この点について判断する。

1  昭和五〇年春闘賃金ベースアップについて、被告会社が組合に対し第一次案を提示したこと、これに対し組合が不満であるとして、昭和五〇年五月二一日組合大会を開き、ストライキ権を確立したこと(賛成四七、反対七)そのため、同月二二日、被告会社が第二次案を提示したこと、同月二四日、原告らが被告会社の第二次案を是としてストライキ回避のため、和田組合長にストライキ反対の意向を伝えたこと、同月二六日、組合大会が開かれたが、賛否両論に分れ、賛成者側から反対者に対し、退場せよ、との要求があり、原告らが右要求に応じて退場したこと、同月二七日、原告らがストライキ反対を理由に組合に脱退届を提出したこと、組合大会が開かれ、原告ら提出の脱退届の処置に関する件が議題とされたが、原告らの行為が、組合規約三五条一号所定の制裁事由に該当するとして除名決議がなされ、原告らに除名通告がなされたこと、この間、右除名手続に関し、組合規約三七条所定の、書面による請求、審査委員会の設置、調査がなされなかつたことは当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第一号証、同甲第五、第六号証(ただし、後記措信しない部分を除く。)、証人和田安生の証言(ただし、後記措信しない部分を除く。)並びに原告河野本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)に右争いのない事実を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被告会社には、分会と組合とが併存しているところ、昭和五〇年の春闘に際しては、まず被告会社と分会との間で、金二万三、〇〇〇円の賃上げ額で交渉が妥結したが、組合に対しては、第一次案を提示するにとどまつたため、組合においては、同年五月二一日組合大会を開催し、これに対してどのようにすべきかを検討することとなつたこと、その結果、同大会において、その賃上げ額については勿論のこと、分会との妥結額を基準として組合に対する被告会社の提案がなされ、組合がこれに回答するといつた従来の交渉方式そのものについても不満や批判があり、この際、ストライキ権を背景に組合としても独自の立場で被告と交渉を進めるべきであるとの意見が大勢を占め、ついにストライキを決行する旨の決議が、四八対七で成立するに至り(原告らは全てこれに賛成した。)、ただ、ストライキ実行の細目等の決定等は、組合の執行部に一任することとなつたこと、

(二)  ところが、被告会社は、同月二二日、組合に対し第二次案を提示してきたので、組合側でも翌二三日に執行委員会を開いて協議し、これを受諾してストライキを回避すべきかどうかにつき討議したが、表決の結果、過半数の賛成により、第二次案を拒否して大会決議のとおりストライキを決行することとし(重機部会選出の執行委員である原告河野、同桑野らはストライキ決行に反対した。)、実行日を同月二六日、ストライキ通告書は同月二四日に被告に提出する旨を決定するとともに、そのころ組合員にもこれを公表したこと、

(三)  一方、原告河野は、当時副組合長の地位にあつたが、被告の第二次案をみて、僅かながらも、被告会社の譲歩する姿勢が見えたことや、現下の不況のもとで赤字経営に悩む被告会社に対しストライキを決行して対決すれば、被告会社を倒産に追い込むことになり、組合員も職を失う虞れもあると考えるようになつたことなどから、第二次案を受け入れ、ストライキを中止する方が妥当であるとの見解を持つようになり、前記執行委員会においても極力その旨主張し、同委員会でそれが否定されたのちにおいても、重機部会の組合員に対しその旨説得し、さらには和田組合長にもその意向を伝え、ストライキ通告書を被告に提出しないように働きかけたが、原告河野を除くその余の原告らも原告河野に同調し、同原告の行動を支持していたこと、和田組合長は、原告河野らの右のような行動を見て、これまで一度もストライキを経験したことのない組合が、このままの状況でストライキに突入すると、団結が乱れ、脱落者が多数出て、ストライキが不成功に終るのではないかと不安になり、ストライキ通告書を被告へ提出せず、スト決行日である五月二六日には、出勤してきた組合員にストライキ指令を出さず、結局、ストライキは実行されなかつたこと、そのため、組合執行部(とりわけ組合長及び副組合長)のとつた措置に納得しない多数組合員の要求によつて、同日午後、組合大会が開かれたが、その席上、釈明を求められた原告河野が「お前ら大会大会というが、大会の決議がそんなに重要か、会社は今数千万円の赤字を出していてそんな不況なのにストライキをやつたらどうなるか判つているだろう」などと、組合大会無視の態度に出たことから、憤慨した組合員らが、「そんな組合大会軽視の言葉を使つていいのか、出て行け」などと叫んで騒然となり、原告河野やこれに同調するその余の原告らは、その場から退場を余儀なくされたこと、そして、その後、同大会で、既定方針どおりストライキを決行して闘うことが確認されたこと、

(四)  このようなことがあつたことから、原告らは、翌二七日、組合の行き方に同調できないとして、連名の脱退届を作成してこれを和田組合長に提出したが、同組合長もその場で処置することなく、一応それを預つたうえ、正式に受理するかどうかは執行委員会に計つて決定することにしたこと、そして、翌二八日昼に開かれた執行委員会において、右脱退届の処置について討議がなされたが、その場の結論として、原告らの脱退を認めるのは相当でなく、むしろ除名処分をもつて臨むべきであるとの意見が大勢を占めたため、右脱退届は正式に受理されないままとなつたこと、同日夕刻、執行委員会での右決定に基づき、原告ら脱退者の処置に関する件を議題として組合大会が開かれ、討論表決の結果、原告らの行為は、「組合の決議に違反したとき」(組合規約三五条一号)に該当するとして、同三六条四号の除名処分に付するのが相当であるとの意見が、四九票対一一票の多数で可決され、翌二九日、組合は、被告会社にその旨通告し、またそのころ、原告らにも口頭で除名処分を告知したこと、

(五)  ところで、組合規約三七条には、「この組合の制裁の請求は、全て書面によるものとし、制裁の請求があつたときは、執行委員会の議を経て審査委員会を任命し事件を調査させ、その報告に基づき、戒告・権利停止については代議員会、解任、除名については大会において決定する。」との規定があるが、原告らに対する本件除名処分については、前記執行委員会においても、また、昭和五〇年五月二八日の組合大会においても、原告らの脱退届には脱退理由が明示されており、かつ、同大会以前の組合大会における原告らの言動が他の組合員に公知になつていることを根拠に、そのような手続を経る必要はないとの意見が強力に主張され、同条所定の手続は全く履践されておらず、被処分者である原告らに弁明の機会が与えられなかつたこと、

以上の事実が認められ、甲第五、第六号証中右認定に反する記載部分並びに証人和田安生の証言及び原告本人尋問の結果中、右認定に反する供述部分はたやすく信用できないし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

3  右認定の事実を総合して考察すると、昭和五〇年春闘の賃金ベースアップの決定方式に対する組合の交渉の自主性の確立、その経済的要求額の獲得をめぐって、組合結成以来初めてストライキ権を確立し、その結束を固め、これを背景に、被告会社側に対処しなければならない時期(同年五月二三日の執行委員会以後)における原告河野の前記言動やこれに同調したその余の原告らの態度は、組合の闘争態勢を崩し、その内部統制を乱すものであつて、このような原告らの行為に対し、団結を維持していくため、組合が何らかの制裁を加えようとするにいたつたのも無理からぬことといえようが、反面、原告らが組合大会の決議に基づいて決行されたストライキに反対して強いて就労しようとしたというのであれば格別、結局ストライキが決行されないで終つてしまつた本件の場合、原告の言動、態度が、間接的にはストライキの決行を事前に中止させる誘因になつたことは認めざるを得ないにしても(したがつて、組合からこの面での責任を追求されてもやむを得ないことである。)、直接、組合規約三五条一号にいう「組合の決議に違反したとき」に該当すると解することは困難である。のみならず、右除名処分が、組合規約に定める中間手続を一切省略してなされたものであるところ、除名処分といつた重大な処分(本件のようにユニオン・ショップ協定が締結されている場合には、従業員たる地位をも失う虞れもでてくる)にあたつては、より慎重な調査、検討と被処分者の権利保護の必要などから組合規約にその手続を明記しているのであつて、この趣旨からすれば、本件のように原告らの脱退意思が明確であり、組合大会での言動が、他の組合員に公知である場合にも、なお所定の手続を履践することが要求されてしかるべきであり、これを欠く除名処分は、重大な手続上の瑕疵のある違法な処分といわざるを得ない。

右のとおり、本件除名処分には、除名処分事由に該当する事実がないのに処分した違法があり、かつ、組合規約に定められた除名処分手続を履践しない違法があり、これらは、いずれも除名処分を無効ならしめる重大な瑕疵であるというべきである。

しかるところ、労働組合から除名された労働者に対しユニオン・ショップ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として使用者が行う解雇は、ユニオン・ショップ協定によつて使用者に解雇義務が発生している場合にかぎり、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当なものとして是認することができるものであり、右除名が無効な場合には、使用者に解雇義務が生じないから、かかる場合には客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することができず、仮に解雇の合理性を裏づける特段の事由がないかぎり、解雇権の濫用として無効であるというべきところ(最判昭和五〇年四月二五日民集二九巻四号四五六頁以下参照)、本件においては、右特段の事由は認められないから、原告らに対する本件解雇もまた無効といわざるをえない。

三、右のとおり、本件解雇が無効であるから、原告らは、本件解雇の意思表示のなされた後においても従業員たる地位を有するところ、被告会社はこれを否認し、昭和五〇年六月二四日以降の賃金の支払をしないことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証によれば、同年六月当時の原告らの平均賃金月額は、別紙賃金目録第二賃金欄記載のとおりであることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実からすると、被告は、原告らに対し、同年六月二四日から同月末までの賃金として、同目録第一賃金欄記載の金員及び同年七月一日以降毎月末日限り、同目録第二賃金欄記載の金員を支払うべき義務がある。

ところで、被告は、本件解雇は、もつぱら組合の除名処分を理由とし、ユニオン・ショップ協定に基づきその履行としてなされたものであるから、除名処分が無効となり、解雇も無効とされた場合には、原告の不就労につき、被告には何ら責任がなく、したがつて民法五三六条一項により、原告らには、本件解雇の意思表示後の不就労期間中の賃金債権が発生していない旨主張するが、前記のとおり、ユニオン・ショップ協定に基づく解雇は、組合の除名処分が有効な場合に、使用者に解雇義務が発生しその履行としてなされるものであるから、たとえ、除名処分が組合の内部自治の問題であるにしても、使用者が除名を理由に右協定による義務の履行として解雇する以上、使用者側としては、組合内部に深く立入つて、除名事由の存否、処分手続の適正等につき厳密に調査、検討し、そのうえで解雇義務発生の有無を判断すべき義務はないにしても、少くとも、当該除名処分が、外観上、実体的、手続的に組合規定等の所定の規定に基づいてなされたものであるか否かの調査、検討をしたうえで解雇義務の履行をなすべき義務があると解するのが相当である。これを本件についてみるに、前記のように組合のなした原告らの除名処分には、実体的、手続的に重大な瑕疵があつて無効であるところ、右瑕疵は、被告会社において通常の注意をもつて調査すれば容易に知り得たであろうことは推認に難くなく、この意味で、重大明白な瑕疵を知らないまま本件解雇の意思表示をなした被告会社には、過失により原告らの就労を拒否した責任があるといわざるを得ない。

したがつて、被告の右主張はその前提を欠き理由がない。

四、上来説示してきたところによれば、原告らは依然として被告会社の従業員たる地位を有し、被告は、原告らに対し、別紙賃金目録第一賃金欄記載の各金員及び昭和五〇年七月一日以降毎月末日限り同目録第二賃金欄記載の各金員を支払う義務があるところ、これを求める原告らの本訴請求は全て理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井玄 田畑豊 田中亮一)

(別紙省略)

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